センチュウ(ネマトーダ)の対策について紹介します。
センチュウは植物の病害虫の中でも土壌の中に出るものなので発見が遅れがちでなかなか厄介です。
植物の根に寄生するセンチュウの駆除や予防の仕方について紹介します。
目次
センチュウの種類
センチュウは透明で成虫だと2mmほどの長さ、太さは0.6mm程度、また卵の状態だと1mm以下の大きさで植物の根に寄生しているので肉眼で見つけることはできません。
植物の根に寄生するセンチュウは大きく分けてネグサレセンチュウ、ネコブセンチュウ、シストセンチュウなどがあります。
自然界には自活型センチュウと言って寄生しないセンチュウ類もいて、人間にとって有用な役割を果たしてくれるものもあるので、センチュウ全てが害になるわけではありません。
ネグサレセンチュウ
ネグサレセンチュウは大根が被害を受けやすいキタネグサレセンチュウがよく知られています。
三浦大根を生産する地域ではネグサレセンチュウに対する対策が盛んに行われています。
根菜類の肌を荒らしたり、名前の通り根を腐らせてしまうセンチュウです。
ネコブセンチュウ
あらゆる植物の根に寄生するキタネコブセンチュウや、さつまいもに寄生して害を与えるサツマイモネコブセンチュウがよく知られています。
寄生すると植物の根に無数の小さなコブができ、患部が広がると根全体がゴツゴツしてきます。
シストセンチュウ
シストセンチュウはじゃがいもに被害を与えるジャガイモシストセンチュウがよく知られています。
シストとはセンチュウのある状態を挿しています。
雌のセンチュウはおびただしい数の卵を生みますが、死んだ後も体が丸い囊胞の状態になり、その中にたくさんの卵を抱えた状態になります。
この嚢胞は乾燥や低温、薬剤に対しても耐性がありセンチュウの卵はその中で10年以上生きることができると言われています。
ですから一度これらのセンチュウが大量発生してしまうと後々まで影響を受けることになり、厄介なのです。
センチュウの被害
栽培している植物がセンチュウの被害を受けると、地上部には特に目立った病害虫も見えないのに生育不良になり、葉が萎れたりしてやがて元気なく枯れてしまいます。
土の中のことなので、一般的にセンチュウ被害は気付きにくく、気づいた時には手遅れ、ということがよくあります。
また一度センチュウの被害が出てしまうと他の植物への影響もあるため、特に地植えの野菜などの場合はセンチュウ被害にあった植物は残念ですが抜き取って処分します。
鉢植えの果樹などの場合は用土を他の植物と分けて環境を維持できるため、時間はかかりますが救済できる場合もあります。
置き場所を隔離した場所にしたり、それができない場合はしっかりした鉢皿を利用するなどして、水やりの際に鉢底から流れ出る水が他の植物の根や土に触れないように管理する必要があります。
地植えでセンチュウの被害が出た時は、土壌の改良が必要になりますが、こちらも労力も時間もかかりますのでなるべく有害なセンチュウを大量発生させないよう日頃から対策しておくことが必要です。
センチュウの駆除対策の前提
センチュウ類は大変生命力が強く、もともと自然界に存在するものですので完全な駆除は難しいです。
センチュウ駆除対策ために農薬による土壌消毒をするとその後の作物の生育はよくても、それ以降さらにセンチュウの数が増える、ということもあることがわかっています。
土壌消毒は他の有用な微生物も殺してしまうため、土壌の自然な微生物のバランスが悪くなってしまうことが原因のようです。
植物が影響を受けない程度に土中のセンチュウの発生量を抑え、植物を健康に育てるのがポイントです。
以下にセンチュウ対策を紹介します。
センチュウ駆除対策①熱による消毒殺虫
センチュウ、特に囊胞に守られたセンチュウの卵は乾燥にも低温にも薬剤にも抵抗性があることはすでに紹介しました。
だからと言ってセンチュウ対策で打つ手がないわけではなく、熱による消毒殺虫はセンチュウ類に対しても効果があることがわかっています。
ジャガイモのシストセンチュウ駆除
ジャガイモの塊茎(種芋)に寄生したシストセンチュウを、ジャガイモの発芽力を害することなく防徐するには50℃の温湯に10〜20分、または52℃の温湯に10分間つけて処理するのが有効であることがわかっています。
サツマイモのネコブセンチュウ駆除
さつまいもの苗づくりで種芋の芽出しをする場合には、種芋を48℃のお湯に40分つけてネコブセンチュウの消毒殺虫をしてから芽出しします。
土壌のセンチュウ駆除
土壌のセンチュウ駆除は少々厄介です。ご紹介した通りもともと自然界に存在しているものですから完全な駆除は難しく、植物の根に寄生するセンチュウを大量発生させないようにコントロールする、というのが基本的な考え方になります。
畑の土
熱による消毒殺虫に関しては直植えの畑の場合は特別な設備でもない限り黒ビニールマルチを張って地温上昇させるのが精一杯かと思います。
ですから直植えの土は他の対策も組み合わせてセンチュウ駆除対策を行うことになります。
プランターや鉢の用土
鉢土やプランターの用土は量が少ないので、じょうろで水をまき、湿らせてから黒ビニール袋に入れて太陽光に当てると内部の温度が上昇して夏場などなら簡単に60℃くらいになりますから、熱による消毒殺菌ができます。
上の写真は10月初旬の晴れた日に黒ビニールに入れた土の表面を赤外線の非接触温度計で測定したところです。
(この温度計は誤差がほとんどなく正確なことは確認済みです。)
中はもうちょっと温度が下がるので時々上下を返したりしながら満遍なく温度が上がるようにします。
土壌の熱による消毒殺菌の目安は52℃で10分以上が最低ラインです。
温度が高くなればなるほど、処理時間は短くてよくなります。
夏場なら炎天下に1日黒ビニールに入れた用土を置いて、時々上下裏返して袋の中の温度がまんべんなく上がるようにすればセンチュウの対策としては十分です。
ただし、他の細菌類の対策もかねて、一般的に園芸用土を再利用する際の黒ビニールによる熱消毒殺菌は1〜2週間程度行うとよいとされています。
最低でも1年に1回は使用済みの用土の熱による消毒殺菌をしたいところです。
センチュウ駆除対策②畑の土のセンチュウ対策
畑で有害なセンチュウを減らすための対策はいくつかあります。
農薬によるセンチュウ駆除
農薬を土に撒いてセンチュウを駆除します。
センチュウ対策の農薬は「ネマ〇〇〇」というように頭にネマの2文字がつくものがいくつかあります。
これはセンチュウのことを英語でネマトーダというからです。
この後紹介するコンパニオンプランツ類でセンチュウ対策のために作られた品種でもネマ〇〇〇と名前のついているものもあります。
農薬は、使える作物や薬剤の量、収穫まで、あるいは1年間に使っていい回数がはっきり決められていますので用法を守って自分が栽培している植物にあったものを正しく使うようにします。
家庭菜園など、趣味の園芸の場合であれば農薬はどうしようもない時の最後の手段、選択肢としておくことを勧めします。
一般的な話として、害虫や細菌がその農薬に耐性を持ったりすると効果が薄れてきたりするものもありますし、土壌の有用な微生物まで殺してしまうなどのデメリットもあることが理由です。
輪作によるセンチュウ防除
畑の場合、土を全面的に消毒する、というのがなかなか難しいので輪作その他の方法でセンチュウを増やさないように努めます。
例えばジャガイモを作る場合、ジャガイモばかりを作るのではなく、間にセンチュウに抵抗性のある作物を1回、もしくは複数回栽培してからジャガイモの栽培をまた行う、という方法です。
小豆や落花生などの豆科の作物やイネ科の植物はセンチュウを防除することがわかっていますから積極的に輪作に取り入れたいところです。
対抗植物によるセンチュウ防除
収穫を目的とした作物以外にも、センチュウ対策として対抗植物を植える方法があります。
センチュウの対抗植物にはマメ科のクロタラリアやイネ科のソルゴーやギニアグラス、もっと身近なところでは花壇の植え込みなどでよく見かけるマリーゴールドなどがあます。
こういった対抗植物を作物と混植したり、次の作物を植える前に植えることで土の中のセンチュウの数を減らすことができます。
センチュウ駆除対策③プランターや鉢栽培のセンチュウ対策
プランターの土や鉢土については熱による消毒殺菌の方法をすでに紹介しました。
またナス科の作物同士、大根などアブラナ科の作物同士を連作しない、というのも大切なポイントになります。
連作障害の記事でも紹介しましたが、ナス科の野菜は、なす、トマト、ピーマン、唐辛子、ジャガイモなどがナス科の野菜になります。
アブラナ科の野菜は、大根、かぶ、キャベツ、小松菜、菜花、ブロッコリー、カリフラワーなどになります。
中には比較的連作しやすい作物もありますが、土の量の少ないプランター栽培ではやはり連作は避けだほうが無難です。
センチュウ駆除対策④コンパニオンプランツを植える
プランターにセンチュウの対抗植物を一緒に植えるのも、畑と同様有効な方法です。
対抗植物、というとあまり馴染みがないかもしれませんが、要はコンパニオンプランツだよ〜、と言えば聞いたことがある方も多いことと思います。
センチュウの対抗植物、コンパニオンプランツを一緒に混植します。
コンパニオンプランツはいろいろあり、先ほど紹介したようなセンチュウのために特別に開発された品種もありますし、身近なところではマリーゴールドはセンチュウに効果があることでよく知られています。
マリーゴールドにはフレンチ種と花がこんもりと大きなアフリカントール種がありますが、どちらにもその効果は期待できるようです。
タキイ種苗からはセンチュウ対策専用のマリーゴールド品種が2つ、「グランドコントロール」と「エバーグリーン」という名前で販売されています。
これはどちらもフレンチマリーゴールドの品種です。
グランドコントロールは花が小さく、茎は柔らかく花が終わった後にそのまま土に漉き込みやすくなっています。
エバーグリーンは名前のとおりずっと緑色、つまり花が咲かない(正確には花の咲く時期が遅く10月以降)品種です。
マリーゴールドの花にはオオタバコガの幼虫が繁殖して周囲の植物を食害することがあります。
このエバーグリーンは花の咲く時期が遅く、気温が下がって来る頃に開花するためオオタバコガの幼虫が繁殖することがありません。
エバーグリーンはまだ今のところプロ仕様の品種のようですが、グランドコントロールは一般向けに小袋の種も販売されています。
通常のマリーゴールドでも効果は期待できますし、一般的なホームセンターや園芸店でマリーゴールドの種も苗も安価で手に入れやすいので、センチュウの被害を防除するためにおすすめです。
その他のハーブでも徐々にセンチュウ防除に効果があるものが研究されてきているようです。
「土壌線虫に対する対抗植物の効果と 利用上の留意点」
こちらの資料によるとステビアもネコブセンチュウには効果があるようです。
Balcofarmではなぜかいちじくのロングドゥートだけはネコブセンチュウの被害を受けやすかったので、植え替えの時にステビアの葉や茎を刈り取ったものを用土に混ぜ込んでみようと思っています。
手に入れやすいところでは、センチュウ防除効果がよく知られているマリーゴールドは育てやすいこともあり積極的に取り入れたいところですね。
センチュウ駆除対策⑤微生物による土壌の活性化
センチュウの被害が出るのは単一作物を栽培するなどにより、土のバランスが崩れることが大きな原因です。
そのバランスを回復するために、園芸用土を再生するための有効微生物を含んだ土壌改良剤を土に混ぜ込むのも1つの方法です。
有用菌の活動が活発になり、有害センチュウの発生量を抑える効果を期待できることがわかっています。
土の中の有用菌を活性化するための方法は他にもいろいろあります。
木酢液を散布したり、堆肥などのよく発酵、腐熟させたもの、腐葉土などの有機物を土に混ぜ込んだり、というのもセンチュウの防除に有効です。
日頃から手入れをして、土の状態がバランスよくなるように管理して、センチュウを防除し、植物が元気に育つ環境を作れるといいですね。
センチュウ駆除対策はできることを組み合わせて
もともと自然界に存在するセンチュウ類の対策はどれか1つだけよりも自分にできるものを組み合わせて対策した方が効果的です。
いちじくの挿し木苗から新しい葉がなかなか出ないので鉢から引き抜いてみたら根がネコブセンチュウ にやられていたことがありました。
処分してしまおうかと思ったのですが、センチュウ対策をしたらどうなるかやってみようと思い、以下の対策を施しました。
- 根のコブがついてしまっているところをできる限り取り除く
- 新しい用土にくん炭と微生物入り土壌改良剤を多めに配合して植え替え
- コンパニオンプランツであるマリーゴールドを鉢に混植
- 水やり時、竹酢液の代わりに食酢をやや濃いめ(200〜300倍)の希釈で2回程度灌水
春になれど一向に新しい葉が出なかったいちじくの挿し木苗が植え替えから約1ヶ月後、新しい葉が育ち始め、2ヶ月後には立派な葉が数枚展開するまでに復活しました。
途中マリーゴールドは植え付け方も雑にしてしまったこともあり、その後しばらくして枯れてしまったので、マリーゴールド自体の効果はほとんどなかったものと思いますが、これだけの対策でもこのいちじくの苗に限って言えばかなり元気を取り戻すことができました。
野菜の場合は栽培期間が短いので、なかなかセンチュウの被害が出てしまうと手当ても難しいかもしれませんが、それでもその土の手入れをしっかりすることで、次の作物の対策をして防除効果はちゃんと期待できそうですね。
参考文献:
農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター
「ジャガイモシストセンチュウの防除に関する研究」
雪印種苗:牧草と園芸 第51巻・第2号
「土壌線虫に対する対抗植物の効果と 利用上の留意点」